他愛ないことを話すだけでも(3)

愛は気付くと、死神の語り口に聞き入っていた。うんうん、と頷くこともあった。死神が話し終えると、やるじゃんあんた、と思わず口にしていた。
「お褒め頂きどうも有り難うございます」
と死神ははにかみながら慇懃に礼をした。ですが、と話を続ける。
「私は勿論貴女も安らかに送るつもりでした。しかし、どうやら貴女は中々一筋縄では行かないようでございます。誠に私の力不足で申し訳ございません。どうやらそうも言って居られない様です」
 次の瞬間、死神は手元から夥しい量の銃刀器を取り出した。
「貴女の様な年代の方をこういう形で送るのは本当に心苦しいのですが、死神に二言は無いのです。一度殺せなかっただけでも充分恥ずべきことですが、更にその上またもや殺せなかった、となる訳にはいきません。全身全霊を持って貴女を殺めさせていただきます。ですがせめてもの配慮です。これらの武器は、全て人間界のものと変わらない性能でございますが、一点だけ異なる部分がございます。肉体は貫いても、痛みは感じない様になっております。強硬手段で申し訳ございませんが――お許し下さい」
そう言うと、死神は一気に無数の引き金を引いた。銃弾の雨が乱打する。しかし、それだけでは終わらない。続けて、大量の刀剣の斬撃を浴びせた。最早そこに在ったものに見る影は無い。
「見るも無残な姿、誠に申し訳ございません。ちゃんと肉体は元の姿に戻しておきますから」
そう言って死神は、合掌した。
「この子にも安らかな死を与えたかった……」
「先刻から誰に向かって話してんのよ」
死神に声が投げられた。はっと顔を上げると、そこにはつい先程と何ら変わりない姿勢を保った愛が居た。
「な……馬鹿な……」
狼狽する死神。
「そんな馬鹿な……戦車の中に居る人をも殺すつもりであったというのに」
「だから言ったでしょ。貴女は私を殺せない、って。私は不死身なのよ、哀しいことに」
そう言って愛は本当に悲しそうな目をして遠くを見つめた。その体には傷一つ無い。
「い、一体何故……何故、そんな芸当が出来るのです」
驚きの表情を隠せないまま、死神が尋ねた。
「私はね、」
何度も話したことをまた話すような口ぶりであった。
「人間によって改変されて、死ねない体にされたの。最近のバイオテクノロジーって凄いのよ? 何せ私みたいな化け物さえ作ることが出来るんだから。私の体を弄繰り回した科学者連中たちはさぞかしご満悦でしょうね、実験大成功で。でも彼らは、自分たちが作ったフランケンシュタインの性能には興味があっても、その内心にはさらさら興味ないの」
死神は言葉を失っている。愛は話を続けた。
「私の両親は私を守ってくれなかった。守ってくれていたら、本当に私の気持ちを考えてくれていたら、今の私は生まれなかったもの。本当に――大っ嫌い」
そう言って愛は顔を顰めた。
「それで? あんたからは何のリスポンスも無い訳? 何か言ったらどうなの?」
死神が漸く口を開いた。
「いえ……では、もう少し貴女の話を聞かせて頂ければと」
「ふうん? 余りしていて気持ちの良い話でもないけど、まあ好いわ。それにどうせこんな話あんたぐらいにしかできないしね、周りの人になんて絶対話せないよ。ドン引き確定だもん」
きっと佳奈もだろうな、まあだから話していないんだし。と愛は心の中で小さく呟いた。