解剖学的嗅ぎ煙草入れと大富豪

Q.5飛び、7渡し、革命、8切りなどのローカルルールが存在する、トランプゲームは何でしょう?
A.大富豪

大富豪ってローカルルール多いですよね。やる人やる人でみんなルール違うんだもん。
ところで私の地元では、
・場に出たカードの数「以上」の強いカードを次の人が出す。
・階段革命は無し。
・4枚革命をスペードの3を1枚出すこと無効にすることができる。
・イレブンバック、7渡し、5飛びなどのルールは無し。
・縛りはスートのみ。階段縛りはなかった。
というルールを採用していました。結構珍しいんじゃないんですか?

皆さんはどんなルールで遊んでましたか?
結構お国柄が出るかもしれないですね、このゲーム。

そして、小説も未だ反省せずに書き続けます。




虹乃ちゃんのお父さんが自殺して数日後、虹乃ちゃんはおじさんのおうちに引っ越しました。おじさんはお父さんの弟でした。そのおじさん以外に虹乃ちゃんには親戚がいなかったのです。
新しい家であるおじさんの家は前の家から自転車で10分ほどの距離にあったので、それほど遠いというわけではありませんでした。しかし、虹乃ちゃんは少しずつ、観音崎のおうちに行くのが億劫になってきました。
そうして、やがて春休みが明け、新学期が始まりました。虹乃ちゃんは2年生、観音崎くんは3年生になりました。
観音崎くんにとってはこの新学期はクラスが変わるだけの、毎年同じの新生活です。しかし、虹乃ちゃんにとってのこの新学期はこれまでとは180度違う全然違うものとなりました。住む家も違う。家族も違う。これまでずっと一緒に暮らしてきた人がいない。もう、虹乃ちゃんはいつ逃げ出してもおかしくないくらいだったはずです。
それでも虹乃ちゃんは逃げ出しませんでした。とても強い心を持っていたのです。でも、周りの人たち、例えば観音崎くんなどは決してそうではありませんでした。虹乃ちゃんは観音崎くんに会うたびにこっと微笑んで挨拶をしましたが、観音崎くんはどう反応してよいかわかりませんでした。


そんなこんなで季節が変わり、いつの間にか梅雨時になっていました。このころには、観音崎くんと虹乃ちゃんは以前と同じように気兼ねなく話せるようになっていました。
虹乃ちゃんは相変わらず博識でした。ある日は観音崎くんにこんな話をしました。

「そいえばさ、『エントロピー』って聞いたことある?」
「ん……まあ聞いたことぐらいはあるよ、確か乱雑さを表すとか何とか」
「じゃあ、そのエントロピーは増大する傾向にある、っていうのは知ってる?」
「あ、それも聞いたことあるよ、あれだろ、ほおっておけば部屋が汚くなるのはエントロピーが増大してるからなんだろ」
「おおーっ、よく知ってたねー」
そう言って虹乃ちゃんは観音崎くんの頭を背伸びして撫でようとしました。
「こ、こらっ、触るな! ええい! 年下に褒められたって嬉しくないわっ!」
「ああ、そっか」
そう言って虹乃ちゃんは笑いました。
エントロピーを自在に減少させることができたらそれはとってもすごいことなんだよ」
「ああ、それはすごいことだろうよ、だって簡単に部屋の掃除ができるじゃないか」
「そうじゃなくて! たとえばね、空気の中から冷たい分子だけを取り出して部屋を涼しくしたりとか、逆に温めたりとかができるの」
「ふーん、まあ便利なことには変わりないな、地球温暖化の問題も解決だ!」
「そうだよ、すごいんだよ、それに永久機関も作れるかもしれないんだって!」
「えっ!? 永久機関? てことは、もし発明したらぼろ儲けで贅沢三昧ができるじゃないか! 今すぐ発明するんだ、虹乃!」
「自分は作らないのね……。それに、たとえ作ったとしてもそんな豪欲な人にはお金はあげませんーっ」
「な、なんだと!? じゃあ何に使う気だ、一体!」
「え、ケーキ10年分かな?」
「一番豪欲なのはお前じゃないか!」

こんなこともありました。

「ねぇ、『ストックホルム症候群』って知ってる?」
聞きなれない単語が突然出てきて観音崎くんの頭の上にはてなマークが浮かびました。
「えっ? ストックホルム……?」
「症候群。ストックホルム症候群だよ。……その顔はもしや、知らないって顔だね?」
「いやぁ、ご名答ご名答。聞いたこともない言葉だよ……問われてるのはこっちなのになんで虹乃が正解してるのやらもさっぱりだよ」
「あははっ、それもそうだね。でその『ストックホルム症候群』っていうのはね」
こうなると観音崎くんは相槌を打ち続けることになります。でも、観音崎くんは実はそういう会話も嫌いではありませんでした。
「ほうほう」
「誘拐事件の人質が犯人に対して抱く感情のことでね、長い間犯人に監禁されてるとね、思考が普通に働かなくなっちゃって、自分を誘拐している犯人を許しちゃうの。それどころか、その犯人に対して好意を持つこともあるんだって」
「え……そんなことがあるんだ、でも、なんでまたそんなことが起こるんだ?」
「ふふん、よく聞いてくれました」
そういう虹乃ちゃんは得意げです。無い胸をそらして話し続けます。
「それはね、誘拐された時、犯人と人質のすっごく小さいコミュニティーでしか生活できなくなるでしょ。そうすると、犯人のことと自分のこと以外考える選択肢がなくなっちゃうの。そして、ずっと犯人のことを考えていると、『ああ、この人も大変なんだなあ』とか思っちゃって同情しちゃうんだって」
「へぇ。何というか、初耳の知識だったな。でも、分かりやすかったわ、なんか。心理学の勉強したみたい」
「そうそう、これは心理学の用語なんだよ。名前は実際にストックホルムで起こった誘拐事件に由来するんだって」
「また一つ知識が増えた! 一体お前はその小さい頭にどれだけの知識を持ってるんだ?」
「そ、それほどでもないよ……」
「まあいいや。でもあれだな、誘拐された人はなんかかわいそうだよな」
「たしかにそうだよね、思考までコントロールされちゃうなんて」
「せいぜい虹乃も気をつけろよ」
「ふふっ、そうだね」

これもまた他愛もない内容の会話でした……。しかし、この時まだ観音崎くんは知らなかったのです、虹乃ちゃんがすでに誘拐されていたということを。
そう、彼女、虹乃ちゃんは、いわば、ストックホルム症候群と良く似た状態になっていたのです。思考が制御されていました。自分を傷つけている人のことを大切に思うようになってきていたのです。

彼女の、新しい家族となったおじさんには、少女趣味がありました。そして、もうこのころには、虹乃ちゃんはそのおじさんに夜な夜な相手をさせられていたのでした――それも結構な頻度で。
それを知り観音崎が激昂したのはもっと後の話です。ただ確実に言えるのは、虹乃ちゃんがとても非道いことをされていたということです。そしてその心の傷は、とても深くまで達していました。表面からは見えませんでしたが。

秋ごろ。観音崎くんが前期、後期で同じ委員会になった浮橋夢乃ちゃんと仲良くなった頃でした。観音崎くんの少ない異性の友達の中では、虹乃ちゃんに次いで2番目に仲良しでした。
そして。とうとう、その日が来ました。残酷な別れが来ました。
このころ、観音崎くんは夢乃ちゃんとも仲は良かったのですが、虹乃ちゃんのことを考える割合は多くなる一方でした。そして、ある日とうとう気づいたのです。これは恋だと。
観音崎くんは虹乃ちゃんに告白することに決めました。
学校の帰りに、虹乃ちゃんのおじさんの家へ行くことにしたのです。