解剖学的嗅ぎ煙草入れ(21)

どうもでーす。
第13代部長でーす。
こないだ毒舌で有名な某太●くんに文章を褒められたものですから、また小説を書こうと思った次第です。
単純な奴です。
まあ別にいっか。とりあえず前回までのあらすじをまとめてみましょう。


主人公・観音崎は同級生の女子・浮橋夢乃に生徒会室に呼び出される。
すると全裸のローマ人・ザ・クロウ=督が『走れメロス』と『テルマエ・ロマエ』的な展開でワープしてきた。
あとは生徒会の他の連中が彼を渡せとか言ってきて、なんかカードを使う人とかが頑張ったけど、ザ・クロウ=督は生徒会の手に渡ってしまった。
浮橋は言う。
最強のカード使いたち「ハ・ナリ=チルドレン」は異質だと。
それはどういう意味か?
観音崎の能力とは?
アヴェスターはもう助からないのか?


それでは、続編、スタート。


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「異……質? どういう意味だ?」
観音崎はオウム返しに聞いた。
浮橋が話し始める。
「順を追って説明していこう。まず最初にだ。カードを持っている君たち、観音崎くん以外の人に話を聞きたい。きみたちはいとも簡単に、強力な能力を何種類も自在に使ってみせる。カードを宙にかざすだけで。何故か? そのカードにはどんな仕組みがあるのか? ……さて、使っている君たち自身は何故だか分かるかい?」
「ハ・ナリ=チルドレン」の一同は首を横に振る。
ヒデタネが答える。
「いや……店頭で買ったものをただ使用しただけであって、何故か我々が使うと普通より効果が増すことしか……」
浮橋はその返事に満足そうに頷くと、解説を始めた。
「普通なら、特殊能力には代償となるものが必要だ。めくらになることで却って言語能力が上昇したり聾唖者が逆に音楽に秀でたりすることも、それの一例と言えよう。そして僕や、観音崎くん、君の能力にも払った代償にあたるものがある。何だか分かるよね?」
観音崎は歯を食いしばりながら答えた。
「悲劇、だろ……」
あまり思い出したくない。眉間に皺が寄っているのが自分でも分かる。
あの日のことは思い出したくない。ただ、彼の脳はその思いに反してある少女の顔を映し出していた。
(虹乃……)
観音崎はあわてて首を横に振り、その少女の残像を頭から消した。
浮橋が説明を続けている。
「要するに、強力な能力には、代償となるものが必要なのだ。それに、何種類もの強力な能力を簡単に操れることなど、いくら代償があっても足りないんだよ、本当は。まあ僕は、そういうことが出来る例外を知っているけれど……、君たち「ハ・ナリ=チルドレン」がその例外でないのは間違いないよ。君たちが今やってのけているその芸当は、本来は許されざることなんだよ。出来るはずのないことをやっているんだ」
オータが反駁する。
「でも、現に私たちはやってのけてるじゃないですか。できているじゃないですか」
浮橋は答える。
「そこだよ。なぜ君たちはできないことができるのか。説明しよう。よく聞いてくれ」
ここで浮橋は一呼吸置いた。そして再び話し出す。
「君たちは、絶大な能力の代償として『心』を失っているんだ」
一同に動揺が走る。
「『心』……?」
「そう、心だ。あと何回かそのカードを使えば、君たちは心無き抜け殻になってしまう。ただの傀儡になってしまうんだよ」
「で、でも、そんなこと……」
「ありえない、って? 甘いよ。今日家に帰ったらニュースを見てくれ。『加担町で昼間でも夢遊病者現る』ってスクープが踊ってるよ。もうだいぶ深刻なところまで来ているんだ。僕の話を信じてくれるのなら、もうカードは使わないと約束してほしい」
そう言って彼女は一同一人一人をじっと見つめる。返事を待っている。
しばらくして、オイカワが口を開いた。
「そんな急に言われても……実感も湧かないし……」
浮橋が諭すような口調で言った。
「僕は君たちの身を案じて言っているんだ。急に言われて実感が湧かないのも分かる。でも、信じてほしい。もう、彼女の好きにさせてはいけない」
「彼女……?」
「さっきの話、まだ続きがあるんだ。僕はいくつもの強大な能力を操ることが出来る人を知っていると言った。それが彼女だ。今回加担町にカードを散布したのも彼女の仕業だと僕は踏んでいる。先ほどのローマ人を誘拐したのも彼女の仕業だろう。言うまでもなく僕たちに攻撃を仕掛けてきた人は皆、彼女の手先だ」
待ちきれずに観音崎が質問する。
「じゃあ、その『彼女』って誰なんだ?」
浮橋が答える。
「僕の上司にして、僕たちの通う学校の生徒会長、江楠真紀菜(えくすまきな)だよ」
「あの、見るからに怪しそうな……なんで生徒会長に選ばれたのかも分からないような奴、か?」
「まあ君がそんな風な印象を持っているのは構わないよ、その人だ。江楠会長がそういったことをやっている。僕はそれを止めるため君たちに助けを求めたのだよ。正確には、観音崎くんに助けを求め、君たちカード使いに救助の手を差し伸べたのだ」
また観音崎が質問した。
「とりあえずその俺やこいつらを呼んだ理由については納得することにするよ、でもだ。なんでローマ人が突然現れて、しかもそいつを寄越せとか奴らに言われたんだ?」
「それは僕にも分からない。でも何か大きなことを成そうとしているのは確かだ。警戒しなければならない」
そこで浮橋が話をやめた。一同は皆真剣な表情をしている。
やがてキョースケがこう一言言った。
「取り敢えず、私たちは電車で帰ることにしますね。カードの件については、私たちの方でも調べさせてください。それでは」
その言葉をきっかけとして、「ハ・ナリ=チルドレン」のメンバーは踵を返して去っていった。
彼らの後ろ姿がやがて見えなくなった。
観音崎ははたと気づいた。
(あれ……? もう日が沈んでいるのに俺浮橋と二人きりじゃん!? どうすればいいの俺!?)
そんな彼の動揺を知ってか知らずか、浮橋は観音崎の方に振り向いた。