クイ研架空戦記@一高祭

プロローグ

 「一高祭販売団体へのお知らせ」。そう書かれた一枚のプリントを前に、クイ研の部員は水を打ったように静まり返っていた。
 残り一か月を切った一高祭で何を販売するか、それを記入するプリントだ。部誌、駄菓子、飲み物。例年通りの商品は既に記入してある。しかし。それでは足りないのだ。売り上げがまるで出ないのだ。ただでさえ部費の削除の憂き目にあっている今、何としてでも売り上げを上げたい。その為の方法を考えるため、部員達は各々思索を巡らせていた。
「あ、そうだ。ヴァイスとかのカードを売ればいいんじゃね?」
発言したのは佐藤京介、二年生にして現部長――かなりの切れ者だ。
「そうですね」
「良いかもしれませんね」
一年生が賛同する。
「でもどうするんですか? 売れるカードなんてあるんですか?」
一年生の質問に、京介が答えた。
「いやぁ、俺の要らないヴァイスとかあるし。一枚千円台にすればかなりの儲けじゃん?」
「おおーっ!」
「ん、じゃあこれは決定、ってことで」
と、プリントに書き込む京介。その手が止まると、また部室内は静まり返ってしまった。
「うーん……」
「何か良い案ないですかねぇ……」
「こう、原価が安くて高く売れるような……」
「でも、そんなのあるかな……」
 部員たちは考え、考え……考えているうちに、ふと全員の視線が一点に留まった。
「な、何ですかぁー」
及川だ。二年なのに未だに一年生に対し敬語を貫いているこの男――坊主頭のくせ者だ。だが今はそんなことはどうでも好い。今この男は――部員がプリントを取り囲んでいるとき――一人本棚の上のめっさ狭いスペースに寝そべっていたのだ!
「何してるんだよ及川ー。ちゃんと考えろよー」
京介が突っ込むが、及川の態度が普段と変わる様子はない。ただオドオドしている。いつものことだからどうしようもないのだ。
「わ、私はただ……」
小声である。どうしようもなく小声。それが及川クオリティ。
「お〜い〜か〜わ〜」
「お、お〜い〜か〜わ〜」
京介の言葉にもただ小声でオウム返しをするばかり。しかも少し吃っている。しかしそれが及川クオリティ。
「お〜い〜か〜わ〜。及川は会計なんだからちゃんと考えろよー」
「か、考えてますよ……」
無論同級生の京介にも敬語。それが及川クオ(ry
及川は狼狽したのか、手でリズムを刻み始めた。
 彼は唯の一介の坊主頭で狭いスペースに挟まるのが得意にして特異な男ではないのだ。その本性はアイマスのプロデューサーにして、ゲーム『太鼓の達人』の達人なのだ。今の手のリズムも大方、『エージェント夜を往く』を脳内再生しながら、暗記している譜面を叩いているのだろう。
 しかし。今この集中している状況では。五月蠅い。邪魔。
「及川―お前好い加減にしろよー。ちゃんと考えてるのかよー」
「か、考えてますよ!」
「じゃあ、良い案出せよ」
「そんなすぐには出ませんよ」
部室が少しピリピリし始めたその時! 部室の扉が勢いよく開かれた!
「それなら良い方法があるよ!」
扉の前には、何故か息を切らした男――この男、いつも全力疾走である。
「急にどうしたんですか、小野寺先輩!」
 そう、この男の名は小野寺亮太。京介、及川の一つ上である現三年生にも「小野寺先輩」と慕われているものの、現在は2年0組というクラス人数僅か三名のクラス、一高性の殆どがその存在を知らないという幻のクラスに在籍し、その傍らに河合塾の予備校生も務めているという、謎の人物である。その人望は厚い。クイズも強い。おまけに運動神経がずば抜けて高い。これはクイ研には中々居ない希少な属性だ。しかし最近及川の手によってアイマスに染まってしまった。洗脳が解ける兆しは今の所無い。
 そんな男、小野寺が言葉を続けた。
「賭け試合をすれば良いんだよ! クイズで! 一ゲーム百円で、勝ったら二百円戻ってきますよ、みたいなのでどうかな」
「おおーっ!!」
「それ、それ良いですね!」
「うーん、やるとしたらルールはどうすれば良いんだろう」
「こっち7○1休、客が5○5×とかでどうですか?」
「おお、良いね!」
妙案に、湧き上がる部員たち。
「こっちの連勝が続いたら、勝った時の獲得賞金が増えるとかどうですか? キャリーオーバーみたいに」
「良いね良いね! それで行こう!」
「儲けるぞー! 今年は儲けるぞー!」

 一通り話し合いが終わると、クイ研部員たちの目は達成感と当日への期待が混ざった光を湛えていた。表情は晴れやかだった。
 しかし彼らは知らなかった……。これから大いなる戦いの火蓋が切って落とされることになるなど……。




一高祭一日目

「なあ、こっちを向いてくれないか。君には僕だけを見ていて欲しいんだ」
 言葉の主は佐藤京介。連日のハードワークに精神が音を上げたのか、その会話の相手は扇風機。扇風機の首振りに合わせて己の首を振っている。
「いや首振りを止めろよ」
「そしたら風が来ない時間が出来ちゃうじゃないですか!?」
「いやお前の首振りじゃねえよ!? 扇風機のだよ?」
 疲れ気味(主に頭が)の京介くんにツッコミを浴びせたのは、前会計にして三年生の鎌田。その仕事のできっぷりは半端ないうえ、鋭いツッコミという武器も持つ。しかしたまに「おっぱい」などとボードに書いて喜んでいるのを見ると、憐れみすら覚える――そんな男だ。今は一高祭の準備を淡々と進めている。今日は一高祭初日。あと10分で一般展示開始である。
「へぇ、今年ドクターペッパーなんて売るんだ」
「はい、コアなファンが来ると信じて」
鎌田の問いに対し京介が答える。
「何? じゃあ京介くんが提案したんだ」
「はい、そうですよ」
「これって美味いの?」
「まあ好みは人によって分かれますかねー。うちの冷蔵庫には常備してありますよ」
「どんな家だよ」
「ただの不動産屋ですが」
「ますます分かんねえよ」
 一方、店先に大きな立て看板を運ぶ及川。看板には「クイズ勝負! 1ゲーム100円、勝てば200円贈呈!! 己の知識をフルに生かして、賞金を手に入れよう!!」と書かれている――件の賭けクイズ勝負である。これで今年の一高祭は大儲けできそうだと、部員たちは皆ワクワクしていた。いよいよ一般展示開始である。

 展示が開始された後、一般客の間では。
「へぇ、クイズに勝てば100円儲けるらしいぜ」
「まじか、行くか」
自信家の高校生たち。
「ほぉ……賞金付きクイズね……」
豊富な知識を持つ大人たち。
「え、クイズで勝てば金貰えるってよ!」
「まじでまじで」
利に聡い小学生たち。
 様々な世代の人々が賭けクイズに興味を示していた。

 やがてクイズ研究部の教室にはだんだんと人が集まり、客足はどんどん増えていった。
「問題。一度も経験していないことを既に経験したかのように感じることを……」
「うーんと……デジャビュ!」
教室に正解音が鳴り響いた。
「正解です! おめでとうございます! 見事うちの部員に勝利しましたので、賞金200円を贈呈いたします!」
「いゃった――!!」
賞金を獲得しホクホク顔で教室を後にする小学生。入り口付近には自分たちの番を今か今かと待ちわびる客の列が。また、順番待ちの間にとお菓子や飲み物を買う客も。
 カウンターで及川が、京介に声を掛けた。
「どうやら、大成功みたいだったですね」
今年は売り上げの心配は要らなさそうだ。二人はほっとした様子で嘆息した。
「ああ、そうだな。この方法なら、俺たちは大きな利益を上げられる。二回に一回負ければトントン、三回に一回負ければ100円の儲けだ。こちらの勝率を適当に変えてやれば客もたまに勝てると分かって飽きない」
「さながらこちらで当り玉の数を変えられる福引き、って所ですかね」
「もっと言えば俺たちはいかさまルーレットのディーラーみたいなもんだな。今年はいける! いけるぞ!」
そう言って拳を握る京介。問い読み席と回答席には一年生が交代で就いていた。
 その後も客足は絶えず、一高祭一日目、結果としてクイ研は大きな業績を上げることが出来たのだった。
 一日目の撤収時間となり、荷物を整理している部員たちの顔は、自然と綻んでいた。
「この調子だと明日もいけそうですね」
「来年もこれで行きましょう、クイズでがっちり、です」
「この分なら売上一位も夢じゃないかもしれないですね」
「そもそもおかしいんだよ、文化祭、って名前なのに売上一位はいつも運動部ですからね」
「今年はひっくり返るかもしれませんね」
やがて、誰からともなく笑いが上がった。充実した今日という日に達成感を感じているようだ。
「この調子で二日目、三日目と売り上げを上げるぞ!」
「オー!!」
部員たちは掛け声をあげると、教室を後にした。

その頃、校舎裏に一人佇む者が居た。その手にはクイ研のビラ。
「ククク……久々に楽しめそうだな……」
男はそう独りごちて、やおらドクターペッパーを飲み始めた……。


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どうも村上です。
ええ。久しぶりの小説です。全く懲りてないです、ええ。
ですが今回はちょっと気合い入れて頑張ってみました。
「Story Editor」というフリーソフトを使っています。これはプロの作家さんも使っているソフトだそうです。また、読み手を意識しながら作成しています(いるつもりです)。
今回の草案のきっかけは一高祭中、こんなことがあったらきっと楽しいだろうなー、ということを妄想したことです。
人物紹介などを入れて、今のクイ研事情を知らない人でも分かるようにしてみました。実は来年度の部誌に載ることを意識して書いてたり。「昨年度 一高祭参戦記」みたいな感じで。

俺が勝手にキャラ付けした設定はこんな感じになっています。
・京介くん……主人公。
・及川……暗い過去有。
・小野寺先輩……クイズに熱心。胸には秘められた決意が……?
・鎌田……良い人。熱いセリフを吐く人。今の所サブキャラの予定。
すみませんが一年生までは書ききれなさそうです……。あんまり部員紹介に頁割くわけにもいきませんので(汗)
出来れば鎌田もメインとして使いたいんだがネタが思い浮かばないんだよなあ。

それでは、お楽しみいただけたら幸いです、『クイ研架空戦記@一高祭』。