きみと自由に

恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす


都都逸という恋愛を歌った歌です。こんな感じの恋愛を、俺みたいなおっさんが語ってみたらどうなんだろう。
なんか気になるところです。
とまあそんなこんなで、また性懲りもなく小説を書き出しました。
今回のはいつもと違いますよ、というのもですね、以前の葉は筆の趣くままに、徒然なるままに書きつくりまくりんぐだったわけだったのですが、今回は初めて! プロットなるものを書いてから書き始めてみました。
何かあらすじを書いてみたということです。
まあ生暖かい目で見て頂けたら幸いです、タイトルは「きみと自由に」(仮)。
名前が痛いのでなんか他のを考えているのですが、なかなか思いつかないでごんす。ま、いいや。
はじまりはじまり。




 第一章 爆発は迷宮入り

 終業のベルが鳴った。生徒たちは次々と教室から出ていく。大半が部活動に向かっていく。そうでなければ帰宅部の連中だ。帰宅部でもないのならその人は、「自由部」の一員なのだろう。
 各々の教室から溢れる人波に俺は辟易した。我先にと争うように部活へ行く人たちの集団にぶつかられても折られることの無いように、手に持っているポスターのように丸めた紙を上に持ち上げた。やれやれ、と俺は心の中で呟いた。どいつもこいつも、何もそんなに慌てて部活に行くこともないだろうに。まあでも、俺も同類か、事実こうして何となく早足でいるのだから。俺の行き先が「部活」でなく「自由部」である、ということ以外は。
「よお、岬」
後ろから声を掛けられた。振り向くと、何とか人混みを掻き分けて近づいて来たのだろうか、少し息を切らした同輩がいた。何やかんやで今では一番息が合う友人、安藤竜二だ。
「おう、竜二。よく気づいたな、この大混雑の中」
「いや気付くさそりゃ、だって紙束持ってうろついてる奴なんてお前ぐらいだろうよ」
ああ、結構目立っていたかあの紙、と少し反省する。
「つうかこないだも持ってきてなかったか、そんな感じのデカいサイズの紙」
「ああ、持ってきてたな」
「いや、持ってきてたな、って……あれはどうしたんだよ? もう使い終わったのか!?」
「ああ、直ぐ無くなるもんだな、一枚十円のカラペ。毎日最低五枚は使うから、なかなか出費も馬鹿にならないんだよ」
「ったくバカはお前だろうよ……」
そう言う竜二の手元にはビジネスバッグがある。これもいつものことだ。どうせ中にはノートパソコンが入っているのだろう、こいつのアニメ観賞用の。まあ、「自由部」は自由だから「自由部」なのだ、こいつも俺と同じ「自由部」の一員である以上、自由な振る舞いをしているのは当然なのだ。
 一階まで階段を降りて、南校舎の一番西端の教室に向かう。否、この部屋が教室として使われていたのはもう何年も前のことだ。その後、物置として使われていた経緯を経て、今に至る。即ち。我らが「自由部」の部室である。
 教室の前には、相当な達筆で書かれた「自由部」の立札がある。この字を書いたのもこの部活の誰かなのだ。マイノリティーにしてプロフェッショナルである人が集まるのが、この部活だ。そして扉を開けると、そこには異世界が広がっている。教室に配置されている表面が黒色の縦長机は、かつてここが理科室か何かであったことを窺わせる。しかしその机のおよそ半分は、荷物で埋まっている。最初に目に飛び込んでくるのは大量の折り紙――これは俺のだ。その向かいには、よれよれの大学ノートと数学の専門書が積んである。これは竜二のだ。他にも色々なもの、兎に角沢山のものが置いてある。しかし、自由部の評判が悪くなってもらっては困るのでここで断言しておきたいのだが、ものが多いからと言って、断じて部屋が汚いという訳ではない。むしろ、下手な部室よりかは綺麗な筈だ。扉から右にまっすぐ進むと、突き当りに掃除ロッカーがある。別に分担を決めている訳ではないのだが、誰か彼かが掃除を週に一度ほどのペースで行っているため、清潔をある程度は保てている。
「いや、この時期は桜が見えて心が落ち着きますな」
安藤がノートと本の山の前に腰を下ろしながら声を掛けてきた。
「ああ、良い時期だな、一年生が入って来て学校内も良い雰囲気だし。それにしてもここはなかなかどうして良い立地だよな、窓から桜が見えるんだから。」
と、俺が相槌を打ったのに、目の前のこいつは話を振っておきながら、自ら言及した桜には目もくれず、パソコンと専門書を開き出した。もう自分の世界に入ってしまったか。パソコンでアニメを見ながら数学の本を読み解く。それがこいつの自由部での活動だ。いや、「アニメを見る」というのは少し語弊があった。こいつはアニメを「見る」のではない。「聴く」のだ。イヤホンでアニメの音を聞きながら、視線は常に手元の本とノート。初めてみた時には正気を疑ったし、目的もよく分からなかったのだが、本人によるとこれが最も集中して数学ができるスタイルなのだそうだ。俺も試しにやってみたことがある。当然ながら即断念した。一体こいつはどうなってやがる、という話なのだが、もう気にならなくてしまった。慣れは怖いものだ。
 さて。俺は丸めた紙を慎重に、折り目がつかないように広げた。幅五十センチはあるラッピングなどに使われる特別薄い紙だ。昼休みにロフトで買ってきた。これを何に使うのか。ラッピングではない。折り紙だ。今日は本に乗っている折り図を見ながら折る作業。赤い紙で、大きな翼と鋭い爪、それに沢山の角を持つドラゴンを折る。五十センチ四方の大きな紙で折るから、迫力も絶大だ。そして俺は折り始める。折っている時間は良い。折り紙に心から没頭できる。外界をシャットアウトして、俺は折り紙に集中した。これが俺の自由部での活動だ。